社長交代をDX推進の起点に――生成AIで技能伝承時間を86%削減した製造業の挑戦
- 本記事の概要
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本記事は、Jマテ.カッパープロダクツ株式会社 代表取締役社長 山本耕治氏・経営企画室 西本俊介氏へのインタビューに基づく全3回シリーズです。
2022年4月、新社長の山本耕治氏が就任しました。同時期からDXに向けた検討が始まり、社内メンバーが集められました。
製造現場には戸惑いがありました。本当に変わるのだろうか。
そして同年9月、経営による正式な決議を経て、DX推進が宣言されます。
その後3年で、同社は生成AIで技能伝承の時間を86%削減します。178本の動画マニュアルを作り、地域のモデルケースとなりました。
世代交代という転換点を、どう変革の起点に変えたのか。従業員295名、新潟県上越市のJマテ.カッパープロダクツの挑戦を追います。
目次
世代交代という転換点―なぜ今、DXなのか
2022年4月の新社長就任。それは単なる経営トップの交代ではありませんでした。
新社長は就任と同時に、DXをひとつの起点として、これまで顕在化しきれていなかった経営課題に正面から向き合う必要性を強く意識しました。それは、組織文化を変えるための決断でした。
この決断を促したのは、深刻な人材構造の課題です。平均年齢は40代前半、多くの社員が10年以上勤続しています。しかし20代と30代前半の若手層が極端に薄い。5年から10年の間に多くの管理職が役職定年を迎えます。次世代を担う中間管理職が圧倒的に不足しています。
この課題は同社だけの問題ではありません。2050年には労働人口が3割減少するという予測があります。
同社は働き方改革にも取り組んでいます。年間休日を115日(2010年)から120日(現在)へと増やしてきました。ウェルビーイングと人材確保のためです。
しかし休日が増えれば、同じ仕事でも生産性を上げなければ維持できません。目標は労働生産性30%向上(2023年比、2025-2026年達成)です。働き方改革とDX推進、この両立が新社長の挑戦となります。
トップダウンからボトムアップへ―簡単ではなかった道のり
従来の経営は指示型でした。プレイングマネージャー型のトップが現場を引っ張っていました。新体制では意見を吸い上げるボトムアップを志向しました。
直面していた課題は3つです。
- 経営スタイルの転換(トップダウン→ボトムアップ)
- 偏った人材構造(若手層が薄く管理職不足)
- 技術伝承の困難(次世代への継承ができない)
道のりは平坦ではありませんでした。
製造の要を担う2人の取締役は、長年、現場と向き合いながらアナログな手法で成果を上げてきた世代でした。デジタルを前提とした変革は、これまでの経験とは異なる領域だったのです。
1年目はトップダウンで大きな成果を出しました。RPAによる年間1,000時間の工数削減です。しかし2年目は目標の2,500時間に届かず、実績は2,000時間でした。
停滞期でした。管理職は目先の業務に追われ、時間が取れません。一般社員は「RPAで仕事がなくなるのでは」と不安を抱えていました。
それでも社長は歩みを止めませんでした。地道に成果を示し、使い方を広める活動を続けます。
やがて成果が現れました。3年目には年間4,000時間の削減を達成しました。現在は年間5,440時間です。
成功のカギは、約10年前から続けてきた改善活動でした。トヨタ生産方式(TPS)で培った「問題を見つけ、改善する」文化です。この土台があったからこそ、DXという新しいツールを受け入れられました。
同社の目指すのは「地産地消のDX」です。自分たちだけが成功するのではなく、地域全体を底上げしたい。地域への発信を積極的に行いました。2024年には工場見学62社141名、セミナー4回で107名を受け入れています。
インドネシア実習生教育で実証した86%の工数削減
技能伝承にも深刻な課題がありました。検査や測定の教育に、体系的な資料がありません。ベテランの「カンとコツ」が見える化されておらず、先輩社員がその場その場で口頭説明するしかない状況です。教える側の負担も大きく、このままでは次世代に技術を継承できません。
動画マニュアル化を試みましたが、課題がありました。2~3分の1動画を作るのに180分かかります。9種類25ファイルを日本語とインドネシア語の2言語で作るなら9,000分、つまり150時間です。管理職にそんな時間はありません。
2025年6月から、生成AIを活用した新方式に挑戦しました。まず工場長が実演する動画を撮影します。生成AIで音声を文字起こしして手順書を自動生成、インドネシア語への翻訳と音声化まで一気に進めます。
取り組む中で、より本質的な課題が浮き彫りになりました。ベテランの「カンとコツ」を、AIが理解できる言葉にする作業です。現場からは「一言一句正確な翻訳」も求められ、言語化の難しさを痛感しました。
こうして最終工数は1,275分、21時間で完了しました。従来比で86%、128時間以上の削減です。
午前中に撮影した動画が、午後にはインドネシア語の教材になる。このスピード感に現場は驚きました。
成功体験を全社展開―動画マニュアルは2025年10月末で178種類に
成功事例は全社に広がりました。2025年10月末時点で178種類の動画マニュアルが完成しています。
クビキ工場では朝の加工機械の立ち上げ動画を29台分作りました。測定検査機器操作手順も25動画あります。産機工場では安全作業標準のスライド50件を整備しました。営業部門でも新人マニュアル34動画を作成しています。
効果は明確です。社員が動画マニュアルで自律的に学べるようになり、管理職の教育負担が減りました。インドネシア実習生、日本人、外国人社員を同時に教育できます。予習・復習が可能な教材として活用されています。
ある管理職は40本の動画を作る過程で、「ここはこう伝えないとわからない」という勘所を掴んでいきました。職人肌の「背中を見て覚えろ」では若い世代は育ちません。動画マニュアルがこのギャップを埋め、YouTube世代の若手は動画で自律的に学べるようになりました。
知見を地域企業へ―産学官金連携の実践
同社が掲げるのは「地産地消のDX」です。自分たちだけでなく、地域全体を底上げしたい。新潟県で4番目、上越地域では初のDX認定取得は、この理念を体現したものです。工場見学やセミナーを通じて知見を共有し、地元ITベンダーとの連携事例も紹介しています。
目指すのは「会って話せる相談の場所」です。地域のリーディングカンパニーとして、成功だけでなく苦労した点も包み隠さず発信しています。
世代交代を組織文化変革の好機に
世代交代、DX、生成AI――この三位一体が同社の変革を支えました。生成AIによる動画マニュアルは、150時間かかっていた作業を21時間に短縮し、ベテランの技能伝承を実現しています。地方の中小製造業が、世代交代という機会を組織変革の推進力に変える。その道筋が、ここに示されています。
参考情報
Jマテ.カッパープロダクツ株式会社
- 従業員数:295名(2025年12月現在)
- 取材協力:代表取締役社長 山本耕治氏、経営企画室 西本俊介氏
- DX認定:新潟県4番目、上越地域初(2022年)
- 記事作成:一般財団法人AI人材育成機構
生成AIを使う人は増えましたが、AIに「何を問うべきか」を意識して使う人はまだ少ないのが現状です。適切な問いを立てられなければ、AIの答えは的外れになり、成果にもつながりません。
AI時代に人間が果たすべき役割は「問いを立てること」です。AIは答えを導く強力な道具ですが、何を問うかを決めるのは人間です。では、どうすれば良い問いを立てられるのか。その鍵は、AIの仕組みを理解することにあります。
AIの原理や推論の構造を知ることで、AIにできること・できないこと、そして人間が担うべき領域が見えてきます。これこそが「問いを立てる力」を育てる基盤です。
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